強引年下ピアニストと恋するカクテル。
誤解


その音色を目指すうちに、自分の腕の限界を知った。私には、人を惹きつけるような魅力的な弾き方も、表現力もない。
性格と同じで、くそ真面目で、リズムが狂わない機械みたいな面白くもない音色。
それが私の限界だと察して、さっさと就職先を探した。
小さな頃通っていた、全国チェーンのピアノ教室の児童教室の担当になって四年が過ぎた。




桜のつぼみをあちこちで見かける三月。
もうすぐ私の仕事場であるピアノ教室でも進級テストがある。受け持っている小学六年生の生徒たちは、テスト結果によって中学からのピアノクラスが決まる。
コンクールに出たり、受賞を目指す子どもたちは、上のクラスのベテランの先生を希望する。
幸いにも私のクラスの子たちはそんな熱心な子たちは居ないので、居残りレッスンや追加レッスンを希望する子は少なく、ぴりぴりした緊張感はあまりない。
それよりも四月からの学校生活の方に緊張している子たちの方が多く感じられる。

「せんせー、さよーならー」
「さようなら。ちゃんと練習してきてよ」
一日でも弾かなかったら指が硬くなっちゃうんだから。
そう言いつつも、学校、部活、恋で忙しい青春真っ盛りの子ども達には毎日触れるのは無理かもしれない。

「お先に失礼しますね」
私も着替えてタイムカードを押しに事務所に向かう。
すると、事務所の一番奥にある事務長のディスクの横のテレビで皆が集まっていた。
「どうしたんですか?」

< 2 / 69 >

この作品をシェア

pagetop