強引年下ピアニストと恋するカクテル。
思い出



『きんちょうしてるの?』
それが私が最初に彼に話しかけた言葉だ。

私は二度目のピアノの発表会だったけれど、緊張して何度も何度も楽譜を見て確認していた。
するとステージに上がる階段の隅に、体育座りで座っている男の子がいた。
丸まって縮こまっていたので、顔は見えなかったけれど、彼も緊張してるのかなっておもって声をかけた。

『きんちょうしてるの?』
『男がピアノなんてださいし、きんちょうするし、さいあくだよ』
手には、くしゃくしゃにした楽譜を握っていた。
左右に破いていて、めちゃくちゃだった。
『きんちょうは私もするよ。二度目だけど、口から心臓がでそうだもん』
『え、いっしょだ』
がばっと顔をあげたその男の子は、天使だった。
< 30 / 69 >

この作品をシェア

pagetop