鎖骨を噛む





ハンドバッグを持って、スマホも財布も持った。鍵も……ってところで、昨日の夜のことを思い出した。そうだ。鍵は開けて行かなきゃいけないんだった。



でも、鍵を置いて行ったら、盗られないだろうか? それはそれで困る。開けては行くけど、持って行くことに決めた。



傘を探している時、ふと冷蔵庫に目が行った。実家では、両親が共働きで、学校から帰ると、冷蔵庫に張り紙がしてあって、例えば、



「ピラフが入っているから、チンして食べてね! 母より」



とか、



「今日はお母さん遅くなるから、お父さんにご飯作ってもらってね! 母より」



とか、書いてあった。私は、ケータイを持たせてもらう中3の冬までは、学校でその日あったことを、冷蔵庫に話しかけていた。



「今日、漢字テストで『決める』って漢字がわかんなくてさー、隣の男の子の答案をカンニングしたんだよねー。」



とか、



「陸上部の先輩にすっごくカッコイイ人がいるんだけど、彼女がすっごくブサイクなんだよねー。私が同級生だったら、きっと付き合えたと思うんだけど、どう思う?」



とか。そうすることで、孤独だってことを忘れることができるような気がした。




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