世子様に見初められて~十年越しの恋慕


「何か分かったことは?」
「それですが、厳重に管理されている倉庫がありました」
「厳重?それって、明らかに怪しいわね」
「はい。安易に近づくことすら出来ないので、まずは信用を得てみます」
「ん、そうね。無理は厳禁だわ。十分気を付けて」
「はい」
「私も接触出来るか試みるわ」
「ですが、お嬢様………。それはかなり危険を伴います。万が一の事があれば、旦那様に顔向け出来ません」
「大丈夫よ、心配しないで。そう簡単にはいかないと思うから」
「はぁ……」

今は何を言っても無理なようだと諦めたユルは、大事にならないことを心から祈った。


ユルは雑務をこなしながら、屋敷に出入りする者を入念に把握し、更に山中で一戦を交えた戸曹に仕える私兵の動きを監視している。
ソウォンは慣れない洗濯に四苦八苦しながらも、確実に下女達の輪に溶け込んでいった。

*********

「世子様、そろそろお時間です」
「……………はぁ。……………もうそんな時間か」

丕顕閣(ビヒョンガク:東宮に位置する世子が仕事をしたり、勉強するための部屋)で書物を読んでいたヘスは、大きな溜息を零しながら書物を閉じ、蝋燭の明かりを吹き消した。

重い足取りで丕顕閣の外に出ると、待ってましたと言わんばかりに内官三人と女官五人が待機している。
いつも見る光景だが、時に拷問のように感じることがある。
それが今宵のような時だ。
常に一挙手一投足は勿論のこと、発言の全てにおいて無数の目が向けられているが、今宵のような時はいつだって好奇の目にさらされた感じがするのだ。

ヘスは内官や女官を引き連れ丕顕閣を後にし、資善堂(ザソンダン:世子夫妻の居所)へと向かう。
既に子時(チャシ:午後十一時から午前一時)の刻とあって、王宮内も静まり返っている。
資善堂の周りには数人の護衛武官がいるだけなのだが、どこからともなく無数の視線を感じるのだ。
そんな空気にももう慣れた世子は、自身の居所である資善堂の南東に位置する部屋へと無言で入る。
そして、素早く着ている衣を次々と脱ぎ捨てると、両手に寝衣を手にした伏目がちの女官が近づいてくる。
ヘスは観念したかのように目を閉じ、両手を広げた。


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