世子様に見初められて~十年越しの恋慕


「うっ、………失礼」

すっかり姿形を変えたお腹をさすり、噫気(ゲップ)を吐くソウォン。
満足げに椅子の背もたれに身を委ねると、ユルは静かに腰を上げた。

「そろそろお時間です、お嬢様」
「もうそんな時間?」

ソウォンがチョンアに尋ねると、チョンアは一瞬で表情を変え小さく頷いた。


亥時(ヘシ:午後九時から午後十一時)の刻。
三人は村外れにあるとある商団の裏庭で、一段高く盛られた場所に鋭い視線を向けていた。

「次は掘り出し者だっ!顔も体も最高級品ですぜ?年はニ十代半ば。夜の相手をお探しなら、もってこいだっ!」

しゃがれた声の男に連れられて来たのは、ほっそりとした娘。
よれよれにくたびれたチョゴリから覗く白い肌。
かつてはふっくらと艶があったであろう頬がこけてはいるが、かなりの美人である。

「ほ~ら、中はこの通りっ!」
「おぉっ!!」

男が娘のチョゴリの襟元を両手で掴み無理やり広げると、卑しい視線を向ける男ども。

「それじゃあ、五両からですぜ!」

男がにやりと目を細めた。

「十両っ」
「十三両!」
「十五両だ!」
「十七両っ!」

次々と男どもの声が上がる中、ソウォンの手はぎゅっと握られ、わなわなと震えていた。

「二十両だっ!」
「おっ、ニ十両が出ましたぜ?!他にいないか~?」

しゃがれた声の男は娘の顎を掴み、男どもに見せるように左右に動かした。
極上の娘とあって、値はニ十両にまではね上がった。

「他にはいないな~?じゃあ、ニ」
「三十両」

男どもが盛り上がる中、ソウォンは静かに口を開いた。

奴婢の相場が二両から五両。
二十両でも十分過ぎるが、ソウォンはぐうの音も出ぬ値を付けたのだ。


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