世子様に見初められて~十年越しの恋慕


「そなた達には世話になったな」
「………いえ、とんでもありません」
「後は我々が調べるゆえ、そなたらはこの件から手を引くように」
「ですが……」

気になった事はとことん調べ上げねば納得が出来ない性格のソウォン。
好奇心と正義感が強いお陰で、危ない目に遭う事もしばしば。
けれど、持ち前の利発さで難なく解決して来たのである。

漢陽へ戻る最中な為、ヘスはこれ以上巻き込む事は出来ないと思ったのだ。
いや、それ以前に……。
ソウォンを危険な目に遭わせたくなかったのだ。

ヘスは首を振り、懇願するような表情を浮かべるソウォンを宥める。

「またいつの日か、漢陽で会おう。………ソウォン」
「っ………、はい、世子様」

世子に楯突くなど言語道断。
例え、ソウォンの手柄だとしても、これ以上言い返す事は許されない。

ソウォンは静かに目を閉じ、丁寧にお辞儀した。
チョンアとユルも頭を下げる横を通り過ぎ、ヘスは部屋を後にした。

ヘスが部屋を出て行って間もなく、護衛の一人がチョンアの元にやって来た。

「世子様からこれを渡すように言い遣っております」
「これは……?」
「薬です。傷痕が残らぬようにと……」
「何と有難き……。どうぞ宜しくお伝え下さいませ」

護衛の男はチョンアの手に紙に包まれた薬草を手渡し、ヘス達の後を追った。

「お嬢様、………世子様からですよ。お噂通り、お優しいお方ですね。………あの時、熱さえ出なければ………」

チョンアは十年前を思い出していた―――。


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