毒舌王子に囚われました
「来い」
「……!?」
手を引いて、お風呂場まで誘導される。
大きな手……。
男の人って、こんなに大きな手をしているんだ……。
「不思議だ」
「へ?」
「お前になら……」
「秋瀬さん?」
「……なんでもない。あとでここに、眼鏡とバスタオル、それから着替えを置いておいてやる」
「え、今着てるやつでいいですよ? ちょっとしか着ていないのに、また新しいの着ちゃ洗濯ものが増え……」「いいから黙って俺の言うとおりにしろ」
ひぃい!
ギロリと睨まれた。……ような気がした。
「あ、ありがとうございます……!」
なんだか感謝の気持ちがわいてくる。
秋瀬さんのことはまだよく知らないが、親戚のお兄ちゃんみたいに思えてきた。
だって、口は悪く、怖い雰囲気はあるけれど、こうやって秋瀬さんなりに面倒をみてくれているわけだし。
「お前……」
「?」
「ドMだな」
「はい?」
「俺が頼んだら、なんでもしそう」
……はぁ!?
「し、しませんよ?」
「どうだか」
そういって、わたしを覗き込んでにんまり笑う顔は、ハッキリと見えた。
悪魔みたいに意地悪な笑み。
なのに、不覚にもドキリとしてしまった意味なんて……
このときのわたしは、少しも気づいてはいなかったんだ。