毒舌王子に囚われました


――ガチャッ


……!!?


扉があいたかと思えば、その向こうから人が現れた。

顔が、ハッキリと見えない。

視力が0.1以下のわたしは、ここが見知らぬ場所だということ以外は、なにも把握できていない。

眼鏡は……、どこ?

飲み会では、確実にかけていた。……記憶をなくすまでは。

眼鏡がないのは、死活問題である。

前方にいる男は――長身で細身だとわかる。


「牧田部長……ですか?」

「俺があんなオッサンに見えるか?」
その声から殺気を感じる。


違う……。牧田部長の声じゃ、ない。


「や、そんなわけじゃ……」


パッと思い浮かんだのが、牧田部長だった。

上のお子さんはもう大学生なのだそうだが、信じられないくらい若く見える、ダンディな紳士。

人当たりもよく、誰とでも仲良くしてくれるから1番安心して話せる男の上司。

それが、牧田部長だ。

忙しいのに歓迎会にも参加してくれた。


でも、違った。


「第一声が牧田って、お前……あいつの愛人か?」

「はぁ……!?」


なにを言い出すんですか。

あ、あ、愛人だなんて。

そりゃ、牧田部長は素敵だ。

仕事の付き合いだとわかっていても、「おはよう」「お疲れさま」なんて挨拶をしてくれただけで、わたしはときめく。

正直にいおう。あれは胸キュンだ。

でも、愛妻家だと聞く。左手の薬指には指輪があるし、デスクに娘さんの写真が飾ってあるのを見たことがある。

愛人なわけ、ないでしょうが。

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