青野君の犬になりたい
第3章

告白

少しだけ残業をして会社を出た。
帰り支度をしながらついつい青野君の席を見てしまう癖が抜けない。
デスクの上はきれいに片づけられていて、鞄もなかった。
気づかないうちに帰ったのだろう。
そんな風に結局私は、毎日毎日、青野君を意識してやまないのだ。
気持ちはなかなかニュートラルに戻らない。

オフィスのビルを出た途端に冷たい風に頬をなぶられ、私はひゅっと肩をすくめた。
「ううう、ストールを巻いてくるべきだった」
自分の腕を抱いて思わずつぶやくと、魔法のようにふわりとマフラーが首にかけられた。
振り向くと青野君の瞳があった。

「聞いてほしいことがあるんだ」
私は考えた。
彼女の、詩織さんの話なら聞きたくなかった。
どうして今まで離れていなければならなかったのか、本当の事情を聞いてもそれは私の心をまたひっかくに違いない。
しばらくは穴の中にこもって青野君への気持ちが色あせるまで鎮めたかった。
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