青野君の犬になりたい
同じオフィスで毎日会っているとはいえ初デートなわけで、心ときめく。
会社ではパンツばかりなのでスカートにしようか、天気はどうだろうか、などと
女子高生、いや中学生レベルに舞い上がっている。 
もう9月の中盤に差し掛かる。
まだ残暑を引きずり暑い日もあれば、急に涼風が吹き、秋の気配を感じる日もある。
着ていく服だけでこんなにも悩ましいのはいつ以来のことだろう。
曜日が変わるごとに、土曜日が近づくごとに、会社では普段のように青野君に接していても、
気持ちがそわそわして浮き足立ってくる。

そしてデート前夜、家で夕食の冷やしうどんをすすっていると、テーブルの上のスマホが鳴った。
とっさに青野君から?と思ってスマホをつかんだが、表示は「ワンフレンド」だった。

ワンフレンドは、捨て犬や虐待されていた犬たちを保護し、彼らの新しい里親を捜す会だ。
一人暮らしの私は犬を譲渡してもらうことはできないが、
2年ほど前からワンフレンドでボランティアをするようになり、
譲渡会を行うときには里親探しのお手伝いをしている。

明日は譲渡会の予定はないはずだけど、と思いながら電話に出た。
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