西城家の花






大志の稽古が終わり、聖に介抱されている美桜に気づいた西城一家は(もちろん大志を除く)一瞬にして血の気が引いた





やはり、あんな雄々しい大志の姿を見てしまったから気分が害してしまったのではないかと、何度も流水一家に自分たちの非礼を謝罪をするも、流水の当主とその奥方はそれを受け入れなかった





別に怒っているわけではない、ただ、西城家が流水家に謝罪をする理由が全くないと、逆にこんな場で体の管理もできない娘のせいで迷惑をかけてしまったと謝られてしまった






場面は戻り、西城の正門で手を取り合っていた西城と流水、両家の奥方の会話が終わり、流水の悦子は夫と娘が既に乗っている黒塗りの車の後部座席へ乗り込んだ





運転手がドアを閉め切る前に、未だに申し訳なさそうに視線を伏せている聖に声をかける





「それでは、聖様。今日はお招きありがとうございます。とても楽しい一日をありがとうございました。今度は流水のお屋敷にご招待いたしますね」





なんてことない言葉なのに聖の顔がくしゃりと歪み、深いお辞儀で流水一家を見送った





車が発進し、その姿が見えなくなるまでずっと聖の顔が上がることはなかった





そんな聖の姿を車の後部座席の窓から眺めていた悦子の胸は罪悪感で溢れていた





西城家、器量が大きい当主と慈愛に満ちた奥方、そして聡明で家族想いの娘に雄々しくも穏やかな息子




なんて素敵な一族なのだろうか




それなのにあんなことになって本当に申し訳が立たない




西城家の人々は決して悪くない、こんなことになったのも全てあの自分の気持ちも抑え込めないほど興奮していた馬鹿娘のせいなのであるのだから




悦子は怒りの矛先を夫の膝に頭を預けながら横になっている愛娘、美桜に向けたのであった





「…大志様、やっぱりとても素敵な方でしたわ」





「こんの…、馬鹿娘が!!」





未だに惚けている美桜の両頬をおもいっきり抓ってやると、やっと正気に戻ったのかいたいいたいと喚き始めた





「何をするのですか、お母様!!頬がとても痛いので、やめてくださいませ」





「いつまで自分の世界に浸っているのですか!!あなたがあんなところで興奮状態になったせいで西城の皆様方に迷惑をかけてしまったではありませんか!」





「だって…だって、写真で拝見したお姿よりも大志様が素敵すぎたものですから、つい抑えきれなくなり…」





そう言ってまた頬を赤らめた美桜の鼻頭をぎゅっとつまんだ






< 17 / 115 >

この作品をシェア

pagetop