溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~



 ベッドの寝心地がよくても、よからぬことしか考えてない奴が一緒では眠れるわけがない。

「とにかく、ダメ!」
「そっか、残念」

 あっさり引き下がったものの、肩を抱いた腕はそのままに、出口にたどり着いた新條は、フロアの灯りを落とす。暗闇の中で新條がつぶやいた。

「寝物語にでも、ちょっと聞いて欲しいことがあったんだけどな」
「え、なに?」

 その直後、花梨は壁に押さえつけられていた。抗議の言葉を発する間もなく、新條の唇で口をふさがれる。
 いつものように甘く優しいキスではなく、貪るように激しいキスに頭がクラクラする。
 少しして唇を離した新條は、すがるように花梨をきつく抱きしめた。そしてうわごとのように耳元でつぶやく。

「花梨、好きだ。花梨」

 なんだか様子がおかしい。東京の会社で何かあったんだろうか。
 花梨は新條の背中に腕を回して、ぽんぽんと軽く叩いた。

「話なら聞くよ?」

 何も答えず、新條は花梨を抱きしめたまま動かない。しばらくそうしていると、耳元でフッとため息が聞こえた。ゆっくりと体を離した新條は、花梨の頭をポンポンと叩く。

「また今度。帰ろうか」

 静かにそう告げて、新條は社員証を認証装置にかざしながら扉を開けた。扉の隙間から差し込んだ廊下の灯りが、暗闇に隠されていた新條の表情を照らす。
 今まで見たことも想像もしたことない寂しげで気弱な表情。けれどそれは一瞬のことで、花梨と目が合った新條はいつものように穏やかな笑みを浮かべた。

「ほら、早く。寝る時間がなくなるよ」
「あ、うん」

 ぼんやり立ち尽くしていた花梨は、あわてて駆け寄り一緒に廊下に出た。

 また今度っていつだろう。一瞬見えたあの表情と、いつもと違う新條の様子が無性に気になる。
 一緒のベッドで寝なくても、ゆっくり眠れそうにない気がした。


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