貴方が手をつないでくれるなら
殺害された被害者の死亡推定時刻から、唯一、表通りにあった防犯カメラに、それらしい男の姿が映っていた。黒いパーカー黒のジャージ。…黒いキャップ。所謂、全身黒ずくめという奴だ。最近は誰も彼も黒ずくめだからな…。大きめのショルダーバッグにサングラス。夜なのにサングラス…怪しいと言っているようなものだ。体形からして年齢は若そうだった。
画像解析をしても、元々が粗いのは解っているが、…こんなもんでいいというのか…。コピーされて渡された物は顔まではっきり見えていなかった。見えてもサングラスが邪魔で全てが解る訳では無いが、それにしても、…お粗末な写しだ。
捜査上、めぼしい人物が特定されたところで、自宅に暢気に居たりはしないだろう。どこかに潜伏する場所でもあるのか。金はどうするつもりなのか。借金でもあって、返す為が目的の強盗だったのなら、とっくに返しているだろうし。あの主から借りたモノを返せなくて、の方が確率は高いか…。殺してしまえば返さなくていい。…その上、大金も手に入る、か。
「なあ、町田」
「あん?」
「そこそこ金も手に入れたかった、となると、海外に逃亡してるってのは?」
「あー…だとしたら、もう、とうに居ないってなるな。…アメリカ…、それに…韓国、こっちに都合のいい国をわざわざ選んでなんて行かないだろうしなぁ。面倒臭い国に行かれたら…」
「…ああ」
終わりだな。
殺人は更に殺人を呼んだ。容疑者として挙がっていた男は、河川敷の草むらの中で遺体となって発見された。結果、海外逃亡はしていなかった訳だ。金はショルダーバッグの中には無かった。どこかに隠していたのか、奪われたのか…。
自殺ではないだろう。仲間が居たのか…。それとも偶発的に起きた殺しなのか。凶器は恐らく男が所持していたナイフだと思われた。
検死の結果、傷口の形状が先に殺された主のそれと一致していた。同一だと判明した。金は何処に、凶器のナイフも消えた。新たな殺人犯が現れた事になる。今のところ、仲間割れによる犯行と、全く関係無い人間の犯行という線で進めて行く事になった。
「またまた遠退いたな」
「あ?あぁ眞壁さんの事か…はぁ。仕方ないさ。不謹慎だぞ。…関係無い、…仕事だ」
「なぁ、仲間は無いと思わないか?」
「ああ、俺もそう思う。多分、偶然の殺害だよな、これって。たまたま金を持っていた男に会った。そして襲われた。だよな」