貴方が手をつないでくれるなら

バシッ。

「アタッ。…何だよ朝から。あー、あれ?肩が外れたかも」

町田が肩をグルグル回す。

「外れてるか…。回せてるじゃないか」

「外れるかあ。そんな柔な身体じゃないわ。で、何だ、映画でも行くのか?」

「か…お前は…恐いわ…」

「馬鹿、最初だから、超~無難にそうなるだろ?いい大人が子供も連れず、動物園ではしゃぐってのもな~」

お前、メール、覗いてるだろ…。

「別に、動物園に行ったからって、はしゃぐとは限らないだろうが…」

「いや、間が持たなくて無駄にはしゃぐね。そして空回りする。また沈黙だ」

「フ、そんなもんか」

「そうなるだろお前なら。止めて正解、映画が正解だ」

「ああ。あ゙…な゙…なんで解る…」

「そうなのか~?」

「…どうでもいいだろ」

「お前が動物園なんて…動物が興奮して騒ぐぞ。あ、ゲートで入園拒否されるかもな。いや、…捕獲されるかもな。麻酔銃で仕留められるな…」

…フン、そっちこそ。動物の雌が騒ぐぞ、…フ。

「夜だろ?…出掛けられるのかな」

「あ゛?あぁ、俺もそれは気になったんだけど、過剰に確認するのも可笑しいだろ?」

「まぁな、いい大人なんだから」

「それだよ。大人だから大丈夫だって言われた」

「自分からそう言ってるならいいんじゃないのか?」

「いいよな?」

「ああ。お前は精々寝落ちしないように気をつける事だな。誘っておきながら寝るなんて、不誠実、不謹慎の極みだ」

「…解ってるよ」

静かなラブストーリーじゃないから、そこは大丈夫なんだ。



映画館の前で待ち合わせる事にしている。俺も行くって言って聞かない町田を振り切って来たには来たが、緊張して早く来過ぎていた。…遅れるよりはマシだ。

…来た。眞壁さん…、ベンチに居る時とは少し感じが違うな。後ろで纏めてあった髪は解いていて、下の方がフワッとしたセミロングだ…。エプロンもしていない。…当たり前か。
深いブルーのシンプルなワンピースがよく似合っていた。小走りに近づいて来るから髪が弾んでいた。…綺麗だ…少しはにかんでいて…可愛い。

「うわ、アッチッ」

煙草の事、うっかり忘れていた。慌てて片付けた。何だ俺…早速情けない。

「はぁ。今晩は。間に合いました?やっぱり刑事さんですね、クス」

「あ、え?」

…煙草の事だろうか。

「向こうから見たら、柱の陰にもたれるようにして、まるで張り込みでもしているみたいに見えましたから」

「あ、それは…、申し訳ない」

それって、テレビの刑事のイメージだけどな。ま、そんなもんか。

「いえ。…そんな。謝る事ではないです。一人って居辛いですよね、行きましょうか?」

「はい」

「何だか人が多いですね…」

取り敢えず並んで歩き出した。

「すみません、リサーチ不足で。俺が観たいと思った物、人気があるらしくて。それに今日はそのなんて言うか…」

「カップルデーとかですか?」

見るからに、それらしい二人連れ率が高かった。

「そう、そのカップルデー。それらしいんです。あまり利用しないから知らなくて。だから更に多いみたいです、すみません」

「そんなの全然です。カップルなら正にレイトショーの方がいいですもんね」

「そう…なります、よね」

惚けて、慌てて今日を狙った訳じゃないからな。
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