名前で呼べよ。〜幼なじみに恋をして〜【番外編】
好きだからこそ。

好きだから、だけど、好きなのに。

好きだから、こそ。


距離を置いた。精一杯だった。


……これは、言い訳ですか。


お決まりの「行くよ」「あ、うん」を済ませて、無言で帰り道を歩く。


途中で寄った自動販売機で、美里はあったか〜いココアを買った。俺はよく冷えた炭酸飲料を買う。


ココアを飲む細い指先が、ひとわたり赤い。


とんとん、とんとん、と、熱を逃がすように、ペットボトルの上を軽やかに跳ねている。


手が冷たくなるからって時折息を吐いて温めていたから、寒いのかと思って自販機に誘ったんだけど、本当は、吐息の温かさじゃなくて。

ペットボトルの熱じゃなくて。


……俺の、手だったらよかったのに。


言えない本音ごと、手のひらを強く握りしめる。


俺に寄越せよ。体温くらい、分けるのに。


……その手を握れないことを、こういうときに思い知らされる。


鞄二つぶんの距離をあけたのは自分だという事実が、俺に追い打ちをかけるんだ。


あの頃も、きっと今も、何だかいろいろなものに、俺たちは拘って。拘らなければいけなくて。


それを悲しむ資格すら、俺には最早、残っていないのかもしれなかった。
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