名前で呼べよ。〜幼なじみに恋をして〜【番外編】
初恋は、いつの間にか手早く過ぎ去って。


恋のきっかけは、そんな大層なものでもなく、ただただ小さくて温かかった。


『そうちゃん』


幼い呼び声がよみがえる。


『ごめん、いっしょ、かえろ』


泣きそうな、その顔も。


『ぎゅーってしててあげる』


そっと笑った、その顔も。


美里の顔が、いくつもいくつもよみがえる。


『おはよ』

『そうちゃん待って』

『……なんで、』

『佐藤くん』

『幼なじみチョコだから!』

『…………わ、かっ……た』

『ねえ』


漫画を貸し借りした。

イヤホンを半分こした。

食べ物を半分こした。

一緒に遊んだ。

家に泊まった。


じゃれて、ケンカして、笑いあって。


幼かったあの頃、手を、つないだはずだった。


何度もつないだはずだった。


……だけど、確かにつないだはずの体温を、今はもう思い出せない。


小さく散らばったそれらを、その柔らかな記憶を手繰り寄せる度に。

欠片をひとつずつ、大事に集めて抱える度に。


はらり、ひらりと恋が積もった。好きが積もった。


そうして、振り返って恋だと気づいて——気づいたら、無理だった。


なあ。


なあ、美里。


好きって言っても、いいですか。
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