名前で呼べよ。〜幼なじみに恋をして〜【番外編】
帰り、呼びに行った教室で、わたしに気づいたそうちゃんがイヤホンを外した。


絡まったイヤホンを一瞬で解くような、するりと手慣れた仕草を眺めながら、隣に並ぶ。


「何聞いてたの?」

「ん」


手渡された左側を装着して、イヤホンを半分こする。


ざわめく教室から出ながら聞いたそれは、ひどく綺麗な音楽だった。

わたしがかつて、そうちゃんの音と決めた通知音に似た、澄んだ音。


穏やかで透明な声が、小さな音量でわたしたちの間に流れていく。


歌声を惜しむみたいに、黙り込んだままで、少しずつ少しずつ、夕焼けの中をゆっくり歩いた。


「みい」

「ん?」


ふいに低く呼ばれて振り返れば、無表情気味なそうちゃん。


「……遠い。イヤホンとれる」

「あ、ごめん」


確かにピンと張っている。


少し近寄ったけど、どのくらいまで詰めてもいいものか分からなくて、もう一歩詰めようとして、迷ってやめたら。


「……遠いってば」
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