名前で呼べよ。〜幼なじみに恋をして〜【番外編】
「えっ」


照れと不機嫌さをにじませて、そうちゃんが焦れたように手を伸ばした。


ぐい、と引かれて手を握られる。


熱い体温を隠す間もなかった。


「…………熱い」

「っ」


嗄れた声でそう呟いたのに、そうちゃんは手を離してくれない。


そうちゃんも熱いよ、とは、言えなくて。


イヤホンをいじりながらきつく腰に手を引きつけて、わたしが離れられないようにしてしまう。


至近距離に思わず逃げた肩は、大きく跳ねながらそうちゃんに近づくことになった。


「離れちゃ駄目です」

「……はい」


分かってる。イヤホンがとれるからだって、分かってる。


分かってるけど、でもこれは、……ちょっと、かなり、ずるい。


揃う足音と、高鳴る心音と、静かに流れる音楽を聞きながら。

触れる肩を気にして、手の熱を気にして。

ちらり、そうちゃんの横顔を仰ぎ見る。


見慣れた大好きなオレンジ色の横顔。


けれど今は、その耳が一面赤かった。


……明日は、わたしがイヤホンしようかな。


そんなことを考えるわたしの耳も、意識するまでもなく、きっと同じくらいに赤かった。
< 9 / 62 >

この作品をシェア

pagetop