一之瀬さんちの家政婦君

和真の視線が飛鳥の顔に向けられ、流れるように胸元へ移動する。

女性らしさにはほど遠いまっ平らな体型。

友人たちには“痩せてていいね”って羨ましがられる事も少なくないが、当事者としてみればとんでもない話だ。

少しぐらい体重が増えても構わないから性別に似合った体をくれ!

これが、飛鳥の本心であり長年の悩みだった。

それを知ってか知らずか、彼は無遠慮に飛鳥の体に視線を送り続ける。

飛鳥は堪らなくなって、両腕で自らの胸元を覆い隠した。

キッとを睨み付ける。

「どこ見て判断してるのよ!失礼ね!」

「事実を言っただけだろ。嫌なら別に構わない。今までと変わらずこの部屋で大人しくしてもらうまでだ」

涼しい顔して恐ろしい発言をする男だ。

飛鳥が断れないと分かって言っている。

悔しさで奥歯をギリギリ噛み締めてみても、現状は何一つ変わらない。

「……嫌なんて言ってないでしょ。やるわよ」

あの狭くて冷たいゲージに閉じ込められた時を思えば、これくらい朝飯前のはず。

以前より、また少しボーイッシュになったと思うことにしよう。

着てみれば案外似合うかもしれないし。

飛鳥はこれからの未来をなるべく明るく考えるようつとめた。

「ひとつ言っておく。この部屋に女が出入りしている事が外部に漏れた時点で即解雇。今の不自由な生活に逆戻りしたくなければ、でしゃばった行動は慎む事だな」

自分勝手に言いたい事だけ告げると、彼はパタンと自らの部屋に消えていった。

飛鳥はすぐさま“あっかんべー”と小馬鹿にする。

彼の目の前では決してできないから、一生分を思わせるほど何度も何度も繰り返したのだった。
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