嘘は取り消せない
「先生! 成瀬君は!?」
この時の医者も立花先生だった
「残念ですが、もう既に亡くなって
いました」

原因は脳に血が溜まってしまったこと
殴られた時に出血してしまったらしい

「そうですか………………」



椅子のところでは桜がまだ座ったまま
震えている
「桜………」
「お兄ちゃん、先輩は? 成瀬先輩はどこ?」
「…………成瀬君はもういないんだよ」
「嘘だよね、先輩は私を庇って、」
「桜姉………」
「先輩は、あの時、絶対に、大丈夫って、
無茶は、しないって、」
桜の様子がおかしい
呼吸が浅い
すでに焦点は合ってない
「桜!! 息を深く吸うんだ!」
「桜姉! しっかりして!」
「倉科さん! しっかりしなさい!」
「ど、どうしたんですか!?」
「立花先生! 桜の様子が!」

「倉科さん! 私の目を見なさい!
落ち着いて!」
「だ、れ ここは、どこなの
あ、れ?せ、んぱいは?」
そう言って、立花先生に倒れ込んだ
「倉科さんの体が熱い
雨に打たれたことによる高熱とショックで
混乱が起きてますね」
「大丈夫ですよね!?」
「えぇ、このくらいなら安静にしておけば
大丈夫でしょう
ご両親に連絡しますか?」
「…いえ、すぐ治るのであれば…
大丈夫です」
あまりの事で頭が追いつかない

「では、学校の方でも呼ばれてるので
失礼します
樹、倉科さんをしっかり見ておくんだ」
「はい……」





次の日
「あ、お兄ちゃん、おはよう」
いつも通り笑顔で何事も無かったかのように
挨拶をしてくれた
「あ、桜 昨日のこと覚えてるか?」
「? 昨日?」
そこで様子がおかしいことに気づいた
好きだった璃月君が亡くなったにも関わらず
今まで通りの桜の姿

「桜、璃月君って知ってるか?」



「璃月? 私の友達?」

「え………」

目を覚ました桜は成瀬君に関する全ての
情報を失っていた

それ以降、家では璃月君の名前も出てないし
学校側にも連絡して最低限璃月君の名前を
出さないようにしてもらった



これが一番はじめの桜の不幸話
< 58 / 121 >

この作品をシェア

pagetop