ミステリアスなユージーン
その言葉がグサリと胸に刺さって凄く痛くて、 私は想いを伝えられないまま失恋してしまった事実を実感した。

……私に興味がないから……関係ないから……だから答えなくてもいいって事だよね。

瞬く間に視界からすべての色が失われ、灰色になったような気がした。

少し前までは、課長に恋心を告げた新田麗亜さんを見て勇気が湧いたばかりだったのに。

……ダメだ。やっぱり私には、あんな風に佐渡君に想いを伝えることなんて出来ない。

想ってもらえない相手に好きだなんて私は言えない……。

涙が浮かび上がってきてこぼれそうになった時、佐渡君が再び口を開いた。

「あなたが何処の誰に恋していようが、俺があなたを好きな気持ちは変わりませんから」

佐渡君のその言葉が、私の動作全てを奪い尽くした。

今、なんて言った……?

動けないでいる私に、佐渡君がゆっくりと近付く。

「もうこれ以上、この想いを胸に留めていられません。菜月さん、好きです。俺と付き合ってください」

その瞬間、私の眼からこぼれ落ちた涙が頬を伝った。

「他の男なんかすぐに忘れさせます。だから俺の恋人になってください」

……夢なの?……それともこれは……現実?

「さ、わ、」

佐渡君が僅かに両目を細めて眩しそうに私を見つめたまま、ゆっくりと手を伸ばした。
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