ミステリアスなユージーン
∴☆∴☆∴☆∴

「……徹夜明けだし接待だったし、疲れてるって言ったじゃん」

肌触りのよい夏布団にくるまって小さくそう言うと、肘をついた佐渡君が私を見下ろしてニヤリと笑った。

「そのわりには凄くエロい声でしたけど」

「ふっ、普通こういう時は大抵エロいんじゃない?!女子も」

すると佐渡君は更にニヤニヤと笑った。

「さあ……」

ず、ズルい。男は大抵エロいって言ったくせに……。

「おっと」

恥ずかしくて反対側を向こうとした私を、佐渡君が素早く両腕に囲った。

「見ないでよ」

「見ますよ。今は俺ものです」

トクン、と心臓が音をたてた気がした。

今だけじゃなくて、ずっと佐渡君のものでいたくなってしまった私には、少し悲しい響きだ。

私は、真上から澄んだ瞳で見下ろす佐渡君を見つめた。

汗の滲む額に、前髪が乱れて散っていてセクシーだ。

通った鼻筋も薄すぎない唇も、何もかもが魅力的で、ずっと見ていたい。

好き。私はこの人が好きだ。

でも多分、彼は私を好きな訳じゃない。身体の相性がいいとかその程度だろう。

だから私は……この気持ちは内緒にしておこう。

佐渡君が、私にチュッとキスをした。

「寝ましょう。明日も頑張らないと」

「うん。……おやすみ」

「おやすみなさい」

言いながら仰向けになると、彼は私の手を握った。

ダメだ……切ない。

私は佐渡君の温かさを感じながら、そっと眼を閉じた。
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