キミは甘のじゃく

「ほんっとうに!!気が利かねーな、このドアホ」

古賀くんは呆れたようにため息をつくと、頬に唇を寄せチュッとリップ音を立てた。

「行ってくる」

「いってらっしゃい……」

自分の予想がとんだ的外れであることを思い知ると、余韻の残る頬に手を当て小さく手を振った。

……まさか、いってらっしゃいのキスをご所望とは思わないよ!!

っと、地面に手をついて思いっきり叫びたくなった。

結婚するとコロリと態度が変わる人がいるというけれど。

(逆の方向に豹変するなんて……!!)

……とんだ誤算としか言いようがない。

結婚を機に引っ越しはしたが、仕事はこれまで通り続けることになっていたし。

やっかいな同居人はいたとしても普段通りの生活を続けられると思っていたのに。

……結婚を境に古賀くんは豹変した。

ことあるごとにキスをねだり、積極的にスキンシップをはかってくるようになったのだ。

傍から見れば新婚夫婦らしい微笑ましい光景なのだが……。

(こんなの……困る……)

……問題は私達が紛い物の夫婦であるということである。

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