心ときみの物語


***


「はあ、幸せですねー」

少し肌寒くなってきた季節。

神社の外を歩く人たちの服装は半袖から長袖に変わり、本当に季節が移りゆくのは早い。

そんな中、ちっとも変わらないのは小鞠の驚くほど敏感な嗅覚だけ。


「半分食べます?」

「俺の金だろ」

小鞠が差し出したホクホクの焼き芋を割って、
その湯気と一緒に口に入れた。

軽トラックのスピーカーからはお馴染みの「石焼きいも~」というフレーズが流れていて。

表の高嶺神社にいたならまだしも、いつもの古びた本殿でゴロゴロと過ごしていたら小鞠がいきなり「焼き芋!」と叫びながら立ち上がって。

「美味しそうな匂いがします!食べたい!食べたいです!」と駄々をこねるから仕方なく買いにきたというわけ。


「もう一本食べたいなあ」

「ダメだ。さっき饅頭食ってただろ。太るぞ」

「食欲の秋ですよー」

最近、顔が丸くなったと言うと小鞠は激怒する。

どこを目指しているのか相変わらず分からないけど、心は常に乙女らしい。それもさっぱり分からない。
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