心ときみの物語


俺たちは少し遠回りをしながら神社に戻ってきた。

「たまには散歩もいいですね」

「俺が散歩してやってんだろ」

「ワンワン」

「首輪買ってやろうか」

「センスないから遠慮します」

「あ?」

そんなやり取りをしながら、拝殿へと続く石段を上っていると……残り3段になったところで小鞠が慌てて走り出した。


「だ、大丈夫ですか……?」

そこにいたのは地面に敷き詰められた小石の上で倒れている女性。淡い唐草色の着物を着て、片方の下駄が脱げてしまっていた。


「平気よ。どうもありがとう。転んでしまっただけだから」

そう言って立ち上がったけど、足を捻ってしまったのかすぐによろめいた。その腕を次に掴んだのは俺。

「あらあら、ご親切にどうも。えっとお名前は……」と女性は俺の足元から頭の天辺まで視線を上下させた。

Tシャツにスウェット。品がある着物と比べると安い服がより安っぽく見える。


「ああ、あなたがエニシさまね」

驚いた。俺を見てそこと結び付ける人はいないのに。

だけど俺のことをそう呼んで、尚且つ姿が見えるということは〝そういうこと〟だ。


「正解だ。君島八重(きみじま やえ)」

俺はニコリと微笑んだ。

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