心ときみの物語


今まで数えきれないほどの依頼を受けて、その事情や年齢は幅広い。だけどここ最近のことを思えば君島八重は特殊というか、珍しい依頼者だ。


「エニシさまごめんなさいね。こんなことまでしていただいて……」

「き、気にすんな」

ハアハアと俺の息が荒くなる中、隣では小鞠が八重の軽い荷物を持ちながら涼しい顔をしていた。


こうなった原因は数十分前の会話が発端だ。

転んでいた八重を助けて掛け所を確認すると、
そこには裏絵馬と呼ばれる黒い絵馬。

早速話を聞こうとした時、小鞠が再び大声を出して「血が出てますよ!」と八重の右足を指す。

確かに白い足袋が赤く滲んでいて、まあ擦りむいたんだろうな、と俺は腕組み。

「じゃ、話を……」なんて切り出したけど、そんな俺を無視して小鞠と八重が会話をはじめる。


「お家はどちらですか?その足じゃひとりで歩けないでしょう……」

「平気よ。少し痛むけど、ほら」

「ダメですよ!足を引きずってるじゃないですか!お家までお送りしますよ。話ならそこで聞きましょう!ね?エニシさま!ね?」

ものすごい威圧的な〝ね〟。結局それに押し負けた俺は八重をおぶって送ることになってしまった。

しかも永遠と続く心臓破りの坂。

俺の運動不足なめんじゃねーぞ。
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