心ときみの物語

「お母さん、お皿どこに閉まってある?」

美幸がひょっこりと顔を出した。


「……お母さん?どうしたの?」

少しだけ玄関を見つめたあと、八重はニコリと笑った。


「ううん、なんでもないわ。えっとお皿ね」

「あ、そういえば実優が春菊と人参の白和えが食べたいって。お父さんも大好きだったよね。私上手く作れなくて……作り方教えてくれる?」

「ふふ、もちろん」


人の繋がりは深く色濃く、そして儚いものだ。

例えそこに血の繋がりがなくとも、それ以上に強い絆さえあればもう離れることはないだろう。


「ん?エニシさまどうしたんですか?」

その帰り道。

夕焼けが隠していたいはずの表情をくっきりと浮かび上がらせる。そんな俺の顔を見ながら小鞠が首を傾げていた。


「べつになんでもねーよ」

美しいものを見たあとは、決まって虚しさが胸の扉を叩いて。そして、思い出す。

心に浮かぶ大切な人を想いながら、黄昏の空の下を俺は歩いた――。
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