金木犀の季節に



四時間の授業を終えて、なんとか家に帰った。
友達と何を話したか、先生がなんといっていたか、すべて思い出せない。
多分きちんと聞いていなかったから。

「ただいま」

そう声をかけた家の中は、静まり返っている。

昨日、兄が居座っていたリビングの机の上には、その騒がしさの代わりに一枚の置き手紙があった。

「お兄ちゃんも、お母さんも、お父さんも今日は多分帰りが遅くなります。 母」


母親の達筆な文字を目でおって、ため息をついた。


帰り道、曇ってはいたものの、雨は降っていなかったし、風はさほど強くなかった。
本当に台風なんて来るのか、疑問に思う。


今はまだ、午後二時半。
奏汰さんに会いに行く時間まで、余裕がある。
だからといって、課題をする気にもなれず、制服のまま自室に行ってベッドにダイブした。
枕に顔を埋めても、羽根布団を頭まで被っても、落ち着かない。
目を閉じては、開けてを繰り返した。




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