金木犀の季節に
ここから出発したのは、回天という潜水艦で、敵の船に水中から突っ込んでいったらしい。
なんて悲しい話なのだろう。
たくさんの遺影が並んでいた。
どれも、笑顔が儚いくらいに美しい。
「ねえ、あの人イケメンじゃね?」
理穂のそんな言葉にイラッとしながらもそちらを見た。
「……え」
思わず声が漏れた。
膝ががくがくいう。
学生服や、軍隊の服を着た写真の中に、一人だけタキシードすがたでバイオリンを持って笑っている男の人がいたのだ。
「奏汰さん」
動かない白黒に向かって声をかける。当たり前だけど、なにも答えてはくれない。
「笑ってないでなにか話してよ」
たったの三日間の想い出が、自分の中でこんなに大きく膨らむものだとは思っていなかった。
「持ってるだけじゃなくてさあ、弓を動かしてよ、バイオリンを弾いてよ」
静かな展示室に私の声が響く。
この写真を見て、奏汰さんが死んでしまったということを痛いくらいに実感させられた。