冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
こっちへ、とフロイラの手をひいて隘路へみちびく。斜面に生えた木の根元に、ちょうど熊が冬眠に使うような穴がぽっかりとあいていた。

「ここへ隠れていらっしゃい。出てきてはダメよ」

「お姉さま、お姉さまは?」
必死でルーシャの手を握りしめる。

「わたしはだいじょうぶ。しばらくしたらここを出て、来た道をもどって牧場の人に送ってもらいなさい」

「お姉さま、また会えるのよね?」

「もちろんよ」
ルーシャは請け合う。

「わたしたちはあの秘密の場所で待ち合わせて、夜明けの庭を探検するのよ。約束したじゃない」

おびえるフロイラにくちづけを贈り、そしてルーシャはひとり立ち上がった。

そのすっくと伸びた背と、ボンネットと巻き毛に縁どられた横顔ほど美しいものをフロイラは見たことがなかった。

振り向くことなく、ルーシャは駆けてゆく。
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