冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
母を悲しませたくはないから、自分の欲求を押し殺すしかない。
幼いルーシャが深刻な抑圧状態から、ヒステリー症状を起こすようになるのは、時間の問題だった。
おもちゃを床に叩きつけたり、画用紙を暗い色で塗りつぶすようになる。
ようやく父は幼い我が子に、精いっぱいの平易な言葉で真実を説明した。
ルシアナことルーシャの本当の名はクラウス。本人の自覚どおり男の子だ。
ルーシャがクラウスであることを、本当は男の子であることを明かせば命が危ない、というのは決して大げさな話ではない。
父と母の身分違いの結婚。そして生まれた子どもを、ヴィンターハルター一族は断じて認めようとはしなかった。
一族の集まりにおいて、母の席はつねに末席、もしくは席自体用意されていなかった。出される料理は、彼女の皿にだけ大量の塩が盛られていた。
動物の死骸や毒を染み込ませた手紙が、送り人不明で何度も届けられた。
快活で笑顔を絶やさない女性だったという母は、やせ細り強迫観念から外に出ることができなくなってしまった。
身ごもったとき、なにより案じたのは、生まれる子のことだ。
爵位継承に優位である男児であれば、その子も同じように命を狙われることを恐れたのだ。
幼いルーシャが深刻な抑圧状態から、ヒステリー症状を起こすようになるのは、時間の問題だった。
おもちゃを床に叩きつけたり、画用紙を暗い色で塗りつぶすようになる。
ようやく父は幼い我が子に、精いっぱいの平易な言葉で真実を説明した。
ルシアナことルーシャの本当の名はクラウス。本人の自覚どおり男の子だ。
ルーシャがクラウスであることを、本当は男の子であることを明かせば命が危ない、というのは決して大げさな話ではない。
父と母の身分違いの結婚。そして生まれた子どもを、ヴィンターハルター一族は断じて認めようとはしなかった。
一族の集まりにおいて、母の席はつねに末席、もしくは席自体用意されていなかった。出される料理は、彼女の皿にだけ大量の塩が盛られていた。
動物の死骸や毒を染み込ませた手紙が、送り人不明で何度も届けられた。
快活で笑顔を絶やさない女性だったという母は、やせ細り強迫観念から外に出ることができなくなってしまった。
身ごもったとき、なにより案じたのは、生まれる子のことだ。
爵位継承に優位である男児であれば、その子も同じように命を狙われることを恐れたのだ。