冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
ティーセットを運ぶ練習だ。

懐中時計を借りて、廊下や階段をなんども往復し、書斎やクラウスの私室まで、運ぶのにかかる時間を計る。

といっても日頃クラウスが使うのは、侯爵家に代々伝わる銀のトレイと優美な陶器のティーセットだ。
手に持つだけでも緊張するので、練習はアンナ・マリーに借りた木の盆に水差しで代用した。

広い邸のこと、もたもたしてはいられない。
なるべく早足で、それでいて慎重に主の元まで運ぶ。涼しい顔でこなすリュカに、改めて畏敬の念がわいた。

クラウスが在宅しているときは、朝昼晩と食事を共にし、ときにアフタヌーンティーの相手も務める。

クラウスが外出するときは、見送りを。むろん帰宅時は出迎えを。
日に何度かお茶を出し、命じられた本を書斎で探して、テーブルに積んでおく。

話題に合わせられるように、クラウスの好む本はなるべく自室で目を通す。といっても、政治・経済・哲学・歴史などの本はフロイラにはどうにも難解だったが。
自分の勉強にもなるので、それでも拾い読みをしていた。
合間に、アンナ・マリーとおしゃべりをしたりして。

そうこうしていると、一日は意外とあっという間だった。
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