僕と家族と逃げ込み家

§ 俺様と能面天使

二週間経ったが……二胡は相変わらずだった。
「よっ!」と逃げ込み屋に顔を出したのは、笹口と美山。

「また来たのか」と呆れていると、叔父が「今日も手伝っていけ」と笑う。
――とはいうものの、店には二組の客しかいない。

なので、「まぁ、座れ」と叔父が顎でカウンター席を指す。
二人が座ると「飲め」と湯気の上がるコーヒーカップを各々の前に置く。

叔父にも分かっているのだ。二人も二胡を気に掛け何度も足を運んでいることを。

「で、今日は?」
「火曜日だから来ない」

決まっているわけではないが、商店街のほとんどの店が火曜定休にしている。
だから、幸助も亮も来ない。

岡崎歯科医院も午後は休診にしている。
当然、栗林母もそのことを聞いたのだろう。二胡も休むと連絡があった。

「そっかぁ。で、あのサイレント姫をどうするつもり?」

笹口の問いに、「だよな、どうするかなぁ」と小さな溜息を吐く。

「――心に傷を負った者は……」

突然、夕方の仕込みをしていた叔父が顔を上げる。

「その傷を埋めるのに、受けた時間の数十倍も数百倍も時間がかかると聞く。長い目で温かく見守ってやったら? 焦ったところで良いことなしだぞ」

叔父の言う通りだと思う。でも……。
< 105 / 198 >

この作品をシェア

pagetop