nocturne -君を想う夜-

あなたの前では、泣かないから。
誰の前でも泣かないから。
人の前では泣く資格なんて無いから。
だから……、独りの今は、泣かせて欲しい。
たくさんくれた愛の言葉。
優しい気持ち。

「本当は最後に、ありがとうくらい伝えられたらよかったのに、ね」

飲み干した透明のグラスの向こう側は、いつもとなんら変わらない私の部屋。

大好きだったのだ。
本当は、最後の時まで。
頼りなかったんじゃない、甘えられなかったんじゃない。
あなたがいたから頑張れたし、その優しさに、甘えていたのだ。

あなたに届いていなかったのならば、それはもう、どうしようもないこと。
月並みな言葉を並べるならば“縁がなかった”のだろう。
きっとお互いに、ちゃんと愛し合っていた。
それは事実。
お互いに好きだったはずなのに、すれ違った想いは固く結ばれることなく、緩く絡まってするりとほどけた。
数ある出会いの内のひとつだったのだ。
それもまた、事実なのだ。









――――あれから、もう、どらくらいの時間が流れただろう?
大人の二十代を迎えてから、随分経った。

プツ、プツ、と。
少しの雑味を噛ませた深みのある音が止む。
針は自らの定位置に戻った。
スーっと音の無い音の中で、レコードだけが廻っている。私は立ち上がり、電源を落とした。
レコード盤を仕舞うと、定位置に戻す。
いつの間にか涙は止まったいた。

夢見る時間は、終わったのに。
まだ胸に巣食うこの想いの残骸が、たまに。
ごくごく、たまに、こうして疼く。

こんな月夜の、美しい夜には――……。







nocturne-君を想う夜- ・完
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