チョコレート・ウォーズ



莉子と杏奈は『ショコラ・ショコラ』を出て、地下鉄に乗り込む。

途中、お互い私鉄とJRへと乗り換える駅に着いたとき、目の前から知ったる顔が歩いてきた。

「莉子、あれって赤瀬と陸斗くんじゃない?」

陸斗を認識した瞬間、莉子の顔が真っ赤に染まる。

「ど、どうしよう。杏ちゃん」

「動揺しない。いつも通りよ。あ、あと、チョコはカバンに入れて」

「う、うん」

莉子が急いで陸斗へのチョコレートをカバンに詰めたのと、

「あれ? ふたりでどこに行ってたの?」

幸弘の呑気な声がかかったのは同時だった。

「ちょっと背伸びしてお買い物。ね、莉子?」

「う、うん。そうなの。りっくんと幸弘くんは?」

「俺たちもちょっと、な」

意味ありげに目配せする幸弘と、いつも通りのポーカーフェイスの陸斗。

「もう帰るのか?」

「うん。りっくんたちも?」

「ああ。じゃ、ユキ、俺たちこっちだから」

ここから、莉子と陸斗、杏奈と幸弘に分かれての帰路となる。

「莉子、行くぞ」

「うん。じゃあ、杏ちゃん、今日はありがとう。幸弘くんも、またね」

真っ赤な顔で陸斗の後ろをついていく莉子を杏奈がぼんやりと見つめていると、横からのんびりとした幸弘の声が降ってきた。

「俺たちも帰るか」

「そうね」

杏奈と幸弘はJR組だ。改札までの道のりを、ふたりで歩いていく。

「莉子ちゃんの用事って何?」

「守秘義務を行使します」

「面白いこと言うなあ、高梨は。莉子ちゃんのことだから、チョコの買い出しってとこだろうけど」

杏奈は何も答えない。幸弘もそれをわかっていたようで、何も言うことはしなかった。

「うまくいくといいな、あのふたり」

「そうね」

「ま、うまくいかないってことはないだろうけど」

ポツリ、とこぼされたその言葉は小さくて、独り言だったのか話しかけられたものだったのか。

判断がつかなかった杏奈が答えないでいると、いつの間にか改札口へとやってきていた。

「じゃ、俺こっちだから」

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