イケメン小説家は世を忍ぶ
昨夜だって……ストッキング脱がされて、手当てされたんだよ。

羞恥で死にそう。

「隠すなよ。今さらだろ」

ケントは呆れるように言うと、私の制止を無視して注意深く足に触れた。

ズキッと痛みが走るが、痛みを堪え平静を装う。

「もう痛くありません。心配しなくてもちゃんと歩けますよ」

ここで歩けないと素直に言えば、この人はまた私を背負ってこの山を移動するだろう。

もうこれ以上ケントの足手まといにはなりたくない。

だが、そんな私の嘘に騙されるほどこの人は甘くはなく……。

「痛いのはよくわかった。歩くのはやっぱり無理か。このパンプスだしな」

ケントは地面に転がっている血だらけのパンプスを拾い上げ、まじまじと眺める。

次から通勤はもっと楽な靴にしよう。

でも……次ってあるのかな?

どうしても楽観的になれなくて……最悪の事態を想像してしまう。
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