夢の中で君を描く
「直人、まだ描いてたのか?てか、完成してんじゃん。」
後ろでドアが開き、雄大の声が教室に響いた。
スポーツバッグを肩に掛けたままドアに背を預け、ポケットに手を突っ込んでいる。
目線の先には、俺の描いている絵。
「してないよ。これは空じゃない。」
「えー、俺はいいと思うけどな。素人だから分かんねーけど。」
サッカー部の雄大は昔からの数少ない友達の一人で、部活が終わるといつもこうしてここに来る。
「俺もなんか描こっかなぁ〜。」
近くにある椅子を俺の隣まで持ってきて、俺の鞄から画用紙を勝手に一枚取り、何かを描きだした。
それは雄大の家で飼っている猫…だとおもわれる。
決して上手ではなかったけど、俺の絵より遥かによく見えた。
「よし出来た!上手くね?」
「上手くはないな。ここめっちゃくねってなってるし。腕どうなってんだよ。」
ダメ出しすると、これも芸術だ、なんて言いだす。
太さはバラバラだし、腕は同じとこから2本生えてるし、顔もなんか怖いし。
でも…
「だいふく、むっちゃ可愛いよな。」
「まぁな。」
少し遠くを見て愛おしそうに話す姿に、本当に好きなんだなってのが伝わってくる。
だいふくは雄大が飼ってる猫だけど、元は捨て猫で、2人で下校してる時に見つけたんだよな。
その後、俺ん家はアパートだから飼えないからって、雄大が親に頼み込んだんだっけ。
薄汚れた体を2人で洗ったら、白いフワフワの毛並みに、群青色に近い黒目が綺麗で。
それ見たら無性に大福が食べたくなったから、名前はだいふくになった。
最初は人見知りがあったけど、今では飼い主に似てか、人懐っこい性格をしている。
「久々に会いたいな。」
「今度うち来る?」
「そうする。」
それから他愛のない話をしながら片付けをしていたら、廊下から足音が聞こえてきた。