夢の中で君を描く



夕日が沈もうとしていた。


チャイムが鳴り、下校時刻を生徒達に知らせる。



運動部の声や、大きなチャイムが鳴ったというのに、あれから蒼井さんは寝たまま。



描く手を止め、時計で時間を確かめると、5時50分だ。


まだ、日が落ちるのが早いな。



早く校門を出ないと、下校時刻を過ぎたら怒られる。


蒼井さんも、起こした方がいいよな。



「蒼井さん。」

近くに寄って名前を呼ぶが、起きる気配がない。


「蒼井さん!」

さっきより大きな声で呼ぶと、少し目を開けた。



「下校時刻だよ。」

「……ありがと。」

蒼井さんは寝ぼけ眼で起き上がると、覚束ない足取りで帰って行った。


それを見送り、美術室へ鞄を取りに行き、校門へと急ぐ。



56分だ、セーフ。


「直人!」

後ろから名を呼ばれ振り返ると、まだ涼しいこの季節だけど汗だくになっている雄大がいた。



「お疲れ。」

「うぃー、めっちゃ疲れた。」

首に巻いたタオルで額の汗を拭い、シャツの襟元をパタパタとさせる。



「今日何したん?」

「裏庭で花描いてた。」

「何で裏庭。」

少し笑いながら、またタオルで汗を拭う。


「中庭は人がおる…。」

「なんな、その恥ずかしがり屋は‼︎」

人を指差してすっごい笑ってくるから、その手を軽く払った。



「てかなんかあった?」

「は、なんで?」

「いや、なんか、いいことあったみたいな顔しとるけ。」

別にって言って、雄大の反対側を見る。


少し、身体の体温が上がった気がした。


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