ウェスター国戦師(いくさし)の書。~優しい追憶~
黄昏時の痴話喧嘩  (イサキside)
なんだってまた、こんなことに。


物陰に隠れながら、目の前の修羅場を凝視する。


「だから!

そんなのシンラの身勝手な思い込みかもしれないじゃない!」


「~~~!!」


「ひどい……どうして?

たしかにシンラも辛かったかもしれない、でもだからってそんなの全然シンラらしくない!」


いや……あのモモ姉があのシン兄を圧してるって。


ありえないだろ。


シン兄は何か言いたげだったけど、うまく言葉が出てこないようだ。


レアだ……こんな光景レアすぎる。


いや、そんなこと考えてる場合じゃなくて、なんとか仲裁しなきゃとは思うんだけど……いかんせん、どう口を挟んでいいのかが分かったもんじゃない。


そもそも、自分の方が二人より年下なんだから。


年下から下手に『まあ落ち着けよ』なんて言われたら、自分なら余計キレる……てかカッコ悪くて心底へこむ。


シン兄だってそういうのを嫌がるってことは、弟分の自分はよく分かってる。


そんなこんなで口を挟めない自分にお構い無く、二人の言い合いは続いている。


「なんでそんな放ったらかしにしておけるの?

私が知ってるシンラは、そんな薄情でも冷酷でもない!

いくらそれなりな事情があったとはいえ……」


「……冗談……きついぜ?

そっから先言うんなら、お前……」


「こんなこと!

生半可な覚悟で言ってるわけないでしょ!

私が、嘘とか冗談とか下手なことは、シンラが一番知ってるくせに!」


「うるっせえ!

お前にグダグダ言われる筋合いはねえ!」


「なによ!

言われて怒るってことは、シンラだって多少なりとも気にしてるからじゃないの!」


……うぅん……もういっぺん言う、なんだってこんなことに。


最初は、冗談というか嘘だった。


それがどこでどう曲がってこうなったのか、この有り様。


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