初めて君を知った日。
とりあえず人気のない空き教室に足を踏み入れた。
まさか瀬尾君の方から教室に来るとは思いもしなかったから、強引に連れ出してしまった。
「ご、ごめん。びっくりしちゃって」
「大丈夫だよ。こっちこそ、ごめん急に。会いに行くのは……嫌だった?」
困惑した様子で聞いてくるから、ぶんぶん首を横に振る。
会いに来てくれたのは、正直嬉しかった。
それと同じくらいに驚いたけど。
「聞きたいことって?」
「あー……いや、聞きたい事はもちろんあるんだけど、話ができる口実だったというか」
「え?」
「話がしたいってストレートに言ったら、断られるかと思って。ごめんね?」
手を合わせて謝る瀬尾君を責められない。
舞い上がってしまいそうな自分に、目を覚ませと訴えかけた。
わざわざ私と話すために口実を作ったなんて……
瀬尾君は本当に変な人だ。
それ以上に、私はもっと変。
いつも個室で先生としか顔を合わせないから、私のように声をかけてくる生徒に興味があるのかもしれない。
「授業、できた?」
当たり障りのない質問をしてみる。
「授業はしないよ。先生と話してるだけ」
「え? そうなの?」
「うん。家の話とか、部活だったり好きなものだったり、そういう話をしてる」
……普通の高校生が喜びそうな時間だ。
だけどそれも、記憶が保たれないのが原因なんだろう。
「実家暮らしなの?」
「そうだよ、両親と弟が1人」
「へえ。弟がいるんだ」
両親と弟、はどうやら覚えているみたいで。
首をかしげるでもなく、家族は分かるらしい。
なら、先生はどうだろう。
「倉芝先生とは、よく話をする?」
質問責めになってしまいそうで少し遠慮しがちに尋ねる。
瀬尾君は一瞬目をそらした。
「多分、毎日話してるのかな……」
不思議な感覚だった。
瀬尾君は、先生も覚えられていない。
曖昧な答えに理解した。