初めて君を知った日。
「僕はきっと、キミの事を知っているよね?」
私に瀬尾君自身の記憶を尋ねられ、冷静にうんとうなずいた。
数日前のように何も知らないままでいたら、本当に何を言っているのか理解できなかったと思う。
「朝起きて制服を着ていたら、僕が写った写真がポケットに入っていたんだ。可愛らしい字でキミの名前が書いてあるから、さっき高畑さんの名前を聞いた時は驚いたよ」
私が撮った写真。あれのお陰だったんだ。
嬉しいのと恥ずかしいのとで、顔を隠したくなる。
もしかしたら、こうやって写真や文字に残すことで、瀬尾君に早く伝わるのかも。
私が話したこと、出会ったこと。
「瀬尾君、ちょっと良い?」
「え?」
私は瀬尾君からメモを受け取り、名前の下に文字を書いた。
記憶として、それが残るように。
「6月12日……図書室で、出会った」
不思議そうにそれを読む瀬尾君へ微笑みかける。
「もし私が分からなくなっても、ここに書いてあることは嘘を言わないから。瀬尾君と私は、出会ったばかりの友達だよ」
不思議と、さみしさはなかった。
今日初めて知った瀬尾君の表情、それが嬉しくて気持ちが温かい。
「……高畑さんさえ良ければ。また会えない?」
「また?」
「そう。たとえば明日とか、」
きっと私は、瀬尾君が嫌だと言っても会いたくなってしまう気がする。
なんて怖いけど。
「明日も会いに来るよ。瀬尾君の事、もっと知りたいなって思うし」
「……」
明日を想像するので精一杯。
確か瀬尾君は、そんな事を言っていた気がする。
それが今なら少し分かる。
私たちが当たり前のように生きている今日。
瀬尾君にとっての今日は、どんな景色で、どんな風に見えているんだろう。
コンコン、とノックする音が聞こえドアが開くと、倉芝先生が顔を覗かせた。
「高畑さん、まだいたのか。1時限目始まるよ〜」
「あ、はーい。すぐ戻ります」
一呼吸ついてカバンを持ち直す。
「それじゃあまたね、瀬尾君」
「うん。ばいばい」
一瞬名残惜しそうに眉を寄せたから、かわいいと思ってしまった。
次はいつ話せるかな。
授業休憩とか、はさすがに迷惑かも。
こんなに心が何かを求めるのは随分久しぶりな気がする。
最近の私といえば、ありふれた日常に満足できなくて本と写真以外心が強く惹かれるものがなかった。
明日もきっと一緒。
ずっとそう思っていたけれど。
瀬尾君と話せるかもしれないと思うと、なぜか嬉しい。
この感情は知らなかった。
「ねえ可奈、なにかあった? 幸せそうな顔してるね」
美友にそう言われるまで、全く気づかなかった。
「な、何が? 別になにもないけど」
「うっそだ〜。あ、彼と話しできた?」
「……うん」
「もっと喜びなさいよ。大好きな人と話せたんだから」
「だ、だからあんたねえ!」
瀬尾君の名前をわざと出さないのもタチが悪い。
美友は本当に小悪魔のよう。