甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 
(12) 呪われたブルー・サファイア

 ミトラ祭も過ぎ、新年も迎え、降っては消えていた雪が消えずに
 残るようになり、狩猟館の周りは一面の銀世界にかわった。

 黒く見えていた針葉樹の森も綿帽子をかぶったように、すっかり
 白くなっている。

 ボルドール邸のあったサミュワーは、こんなに雪がつもらなかったから
 どこまでも続く雪景色は、生まれ故郷のヨールドを思いおこさせる。

 フィーネは強く帰りたいと思った。

 ユアンに会ってから、毎日がめまぐるしくて、故郷のことを忘れていた。

 
 もうボルドール邸には帰れない。

 ずっとユアンのそばにはいられない。

 犯罪者のそばになんかいられるわけがないと思っていた気持ちは
 いつの間にか消えていたけど、今は違う理由で、やっぱりユアン
 のそばにはいられない、ううん、いたくない、とフィーネは思う。

 夕闇の迫る薄暗いリビングで、ユアンとイリーナが交わしていた
 キスを見てしまったから。

 情熱的なキスだった。

 ずっと、ユアンがイリーナに近づくのは、ブルー・サファイアを
 手に入れるため、と思ってきたけど、イリーナは美人で、賢くて
 思いやりのある素敵な女性だ、ユアンが本気で好きになったとしても
 おかしくない。

 あれは本気のキスだった。

 瞼に、こめかみに、頬に順にキスをしたユアンは、イリーナの
 胸元を広げて、そこにもキスをおとした......。

 
 頭をふって、心に浮かんだユアンの姿を振り払うと、フィーネは手元
 の地図に目をおとす。

 狩猟館の本棚で見つけたそれによると、北寄りのここペンリスから
 フィーネの故郷のヨールドは結構近い。

 ”この空の向こうに、故郷がある” とフィーネは窓の外に目を向けた。






 さくさくと雪を踏む音は二人分。

 はぁと息を吐けば、真っ白になって消える。

 ユアンの腕に自分の腕を絡めるように歩いていたイリーナが、急に
 バサリと目の前に落ちてきた雪に、” きゃ ” と言ってしがみついたから
 レナルド=オルセン伯爵......ユアンはさっと、イリーナの腰を引き寄せた。



   「びっくりしたわ」



 引き寄せられたまましがみつくようにしていたイリーナが顔をおこして
 レナルドを見る。

 そして、甘えるようにユアンの肩にそっと頭をのせた。



 
 
< 167 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop