甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

   「それでその女の子はどういう子なの」

   「うーん、そうだなぁ」

   「焦らさないではやくおしえてよぉ」


 建物に近づけば、そんな声が聞こえてくる。

 一人や二人ではなさそうだ。

 ひょいと覗き込めば、家のそばのナラの木の下にユアンの姿が見えた。

 緑の葉を茂らせた木の下の、小さな椅子に座ったユアンの周りを、
 三人の若い娘が取り囲んでいる。

 足を投げ出したり、膝を抱え込んだり、思い思いの姿で座った娘たちは
 みんな胸元が大きくひらいた、ひらひらと薄いドレスを着ており、
 中には座っているユアンの膝に甘えるようにもたれかかっている娘もいる。

 真ん中で娘たちの視線を一身に集めているユアンが、もう一度
 ”そうだなぁ” と呟くと、頭をふった。

 さらりと金の髪がゆれ、朝日を浴びて、それは鮮やかに輝いた。

 ブランドン伯だった時の彼は肩までの黒髪に、ブルーグレイの瞳だった
 けど、今は違う。

 少し短くなった髪は輝くばかりの金髪で、瞳は冷めた色をした
 アイス・ブルーだ。

 髪は染めれば変えることができるけど、瞳の色が違うのはどうしてなんだろう

 もっとも変わっているのは髪と瞳だけで、整った顔立ちは変わっていない、
 女の子の視線を釘付けにするところも。


   「その女の子は、男爵家の一人娘として生まれた。母親ははやくに
    亡くなり、父親が唯一の肉親だ。」


 ユアンが話し始め、取り囲んでいた娘たちが身を乗り出した。


   「だが父親は事故で亡くなり、乗り込んできた親戚だと名乗る
    男に、屋敷も財産も奪われてしまう。そして男爵令嬢の地位も
    奪われ、遠く離れた伯爵邸で家庭教師として働かされるんだ」

   「やだ、可哀想」

   「それでどうなるの?」


 ユアンの話を聞いている女の子たちが騒いだ声をあげたが、フィーネは
 心の中で叫び声をあげた。

 それって私の話じゃない! なんでこんなところで他人に話してるのよ!

 
< 23 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop