甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 
 
 娼館のいくつかのテーブルには、何人かの人たちが思い思い
 の席について、遅い朝食をとっていた。

 さっきユアンの話を聞いていた娘たちも固まって座っている。

 昨日からまともな食事をしていないフィーネには、ユアンが持ってきて
 くれた温かいスープも、サラダもパンもありがたいものだったけど、
 周囲から向けられる視線が気になって、食事はすんなりと喉を通って
 いきそうになかった。

 周りの人から向けられる好意的でない視線や、ひそひそ囁かれる声は
 フィーネがよそ者のせいだろうけど、そればっかりではないような
 気がする。

 それはきっと、フィーネの前で澄ました顔で食事をしているユアンのせいだ。


   「ちょっと、誰よ、あの女」

   「なんでユアンと一緒に食べてるの!」


 漏れ聞こえる声に、向けられる視線に、羨望と嫉妬がまじっているから。

 こんなことになるなら、一人で食べればよかった。
 のこのことこの人についてきたりしたから......。

 恨みがましい視線を送っても、ユアンはちらりともフィーネの方を
 見ようともしなくて、なんだか色々と腹立たしくなったフィーネは、
 身を乗り出すと、小声でユアンを呼んだ。


   「ねえ、ちょっと!」

   「なに」

   「どうして私の身の上をぺらぺら人に喋ってるの?」

   「ああ、あれ。あれは僕の頭の中のストーリーを話しただけだよ」

   「ストーリーって、私があなたにした話し、そのままだったでしょ」

   「そう?ちゃんと脚色してあったと思うけど」

   「どこが!」

   「うーん、遠縁の男が、親戚の男になってたし......」
 
   「はぁ? そんな些細な違い、脚色って言う?」


 フィーネが怒って言い返せば、ユアンは可笑しそうに口を歪めた。

 

 
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