夢みるHappy marriage


「なんでこんな店舗拡大なんて案件にうちのツートップが出るんですか?」

そう、不服そうに言う奥森。来る時から気乗りしない様子だったが、ここに来てやっと爆発したらしい。奥森らしく素直に不満を口に出す。

「Webサービスの方は、環に任せておけば大丈夫だろ。俺達もちょこちょこ顔出すつもりでいるし」

環とは創立時のメンバーの女性で、俺が社内で一番信頼している社員だった。奥森も環を憧れの先輩としているようで、何かと頼りにしている存在だが、それでも眉をひそめたままぼそっとぼやく。

「……卓哉大丈夫かな」

奥森が心配する卓哉とは、奥森より数年後に入って来た中途社員。そこは年が近いせいもあり仲が良いようだ。

「本当だ、うちの可愛い卓哉がいじめられてないといいけど」

そう言ってまるで他人事のように言う。片桐にとっても卓哉はお気に入りの存在だった。理由は単純で、奥森と違って可愛いから。

「もう卓哉が可哀想ですよ、可愛いっていうなら助けてあげてください」

「うーん、もっと可愛い子見つけちゃったから今は無理かなぁ」

「はぁ?」

片桐の軽口に、上司にも関わらず睨み付ける奥森。

「あ、来た」

片桐の弾むような声に、彼の視線に合わせるとそこには、この間傘を持ってきてくれたおかっぱちゃんの姿が。
途端に更に眉間に皺を深くさせ、心底面白くなさそうな顔をする奥森、そして声を荒げて片桐に詰め寄った。

「……まさか、あの子がいるからこっちに来てる訳じゃないですよね?」

「どうだろうなー」

そんなやり取りをしていると、千聡ちゃんがお盆にお茶を乗せて部屋へ入って来た。

「お、お待たせしてすいません。もうすぐ皆さんいらっしゃいますので」

そう言って俺達の前へお茶を出していき、そそくさと部屋から出て行ってしまう。無理もない、不躾に奥森がメンチ切ってるのだから。

「……本当にアレ目当てなんですか?」

「アレとはなんだ、アレとは」

千聡ちゃんをアレ呼ばわりされ、咎めるように言う片桐。

「……28点」

顔をひきつらせながら彼女に点数をつける奥森に、片桐も不機嫌そうな声で聞き返した。

「は?」

「どんな可愛い子が出てくると思ったら、片桐さんあぁいうイモっぽい子がタイプだったんですか」

「なんだよイモって。恥ずかしがり屋さんで可愛いだろ、なかなか目合わせてくんないとことかさ」

思わず笑ってしまう、確かに彼女と目が合ったことがない。
この前は初対面だったから仕方がないのかもしれないが、たいてい目線が下に泳いでる。

「まぁ、間違いなくうちの業界にはいない子だよな。初々しくて可愛い」

そう言って俺も、片桐が新鮮がって可愛がるのも無理はないと納得する。

「本当、お前らみたいな容赦ない女ばっかと話してたからもう新鮮でね」


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