夢みるHappy marriage


そのまま、手が腰に回ってきて急かされるように強制的に連行される。
立ち止まって抵抗する隙もない位、腰に回った腕の圧がすごい。

……なんでいきなり、こんな拉致られてんだろう。
しかもこのジャケットくそ高いだろうに、私なんかにかけたら濡れちゃうよ。


「ここまでしてくれなくていいのに、大げさだよ」

ぼそっとそう言って彼の顔を見上げる。けどその横顔は何も言わず、こちらを見ようとさえしなかった。

……なんだろう、怒ってるような気がするのは気のせい?
むっとして、どうしてそんな怖い顔をしてるんだろう。

私が自分の社風に合わない、みずぼらしい恰好で来たから?

そして、こんな私でも営業先の人間だからか、一応気を使ってわざわざホテル取ってくれたんだろうけど。
何も社長自らついてこなくたって良いんじゃないの?
せっかく会議に間に合うように急いで資料持ってきたのに、結局本人がここにいたら意味ない。

社長の歩調に合わせて足早に廊下を抜け、エレベーターホールへ。
オフィス棟だったからかあまり人と会わず辿り着くことができた。

一度低層階へ降りて、ホテルへ繋がるエレベーターで行く様子。

到着したエレベーターはちょうど無人で、無理矢理ジャケットを羽織らされている私はほっとしながら中に入る。
その一瞬の安息もすぐに打ち壊され、責められるように壁に追いやられた。


「……これ、どういうこと?」

「そ、それはこっちのセリフ。なんでいきなりホテルなんて」

「そんな格好で、そのまま帰せないだろ。それよりも俺の質問に答えろ」

「だって会議間に合わないと思って急いで来たから。榊原さんに恥ずかしい思いさせたなら、それは謝るけど」

「は?何言ってんの?」

「な、なんで、そんなに怒ってるの?」

彼の顔を見上げながら、思わず涙声になってしまう。
私が男の人に怒られるのが苦手だって知ってるはずなのに、そんなに私悪いことした……?


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