夢みるHappy marriage

目で十分に堪能した私は、ようやくそれに箸をつけて口の中へ入れる。

入れた瞬間から、お肉もウニもとろけてなくなってしまい、口の中が濃厚な味で占められる。

あぁ、今贅沢な掛け合わせが溶けて絡まって、口の中が幸せいっぱい。

もう幸せ過ぎて死んでもいいっ。
美味し過ぎて、感激のあまりに両手で口元を覆う。
目にはうっすら涙が……

「ん~、おいしい……っ」

「食べてるときだけは素直で可愛いな。少し大げさだけど」

「美味しいものを、美味しいって言って何が悪いのっ」


あー……これあと10個食べれたら、もう人生まっとうしましたって感じ。

極上の組み合わせを頬張ったあとの幸せの余韻に浸る私に、頃合いを見計らって榊原さんが聞いてきた。


「……お前家事はできるか?」

「家事?まぁ、人並には」

「明日から仕事が終わったらうちに来い」

「はぁ?何、突然急に」

「うちで家政婦やって欲しい」

「はぁぁっ?」

もしかしてこうやって口説くために、わざわざ婚活パーティに乱入して、ここに連れ込んだの。
美味しい食べ物で釣って、私に家政婦をさせるために?


「あぁ、金か?月30万でどうだ?」

「さんじゅうって……っ」

……今、派遣で働いている給料のざっと2倍だ。
騙されちゃダメだ、甘い話には罠がある。


「私、一体何やらされるの?」

「普通に家事してくれれば良いよ。あ、そういえば、忘れてた」

「え?」

そう言って、カバンの中から茶封筒を取り出すと、私へ渡してきた。

「あ、あぁ」

中身は、先日のキス分の札束が。


「あまり嬉しそうじゃないな」

本当にもらえると思ってなかったし、簡単にこれだけの札束を人に渡せることに驚く。
それに、あのキスに果たして10万円分の価値があったか甚だ疑問だ。

お金は大好きだし、今月ちょうど困ってたしすごく助かるんだけど。
価値に見合わない報酬に、やっぱり複雑だ。

こうやって簡単に人にお金渡せるって、女の人にお金を渡して遊ぶことに慣れてるってことだよね?


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