夢みるHappy marriage
「……いい匂いがする」
「朝ごはんできてるよ」
「ん」
むくっと起き上がると、スウェットズボンだけで何も身に着けていない上半身。
程良く引き締まったうっとりするような体をあまり見ないように彼を呼び止めた
「待って、待って、パンツ一枚でふらふらしないで」
そう言って腕を掴み、クローゼットから適当にシャツとズボンを出す。
「上、シャツ着てズボン穿いて、はいあと靴下」
「ん」
そう言って渡すが、超絶スローペースな榊原さんにしびれを切らして着替えを手伝う。
「ベルトこれで良い?」
「ん」
「ネクタイは?」
「ん」
目を閉じたまま、まだ立ってるのもやっとな位でふらふらしている。
そんな彼に適当に選んだそれらを、勝手に身に付けさせていった。
「はい、できたっ。顔洗ってきたら、ごはんにしよう。時間ないんだからぼさっとしないで」
そう言って彼の腕を掴んだまま、洗面所へ連行する。
いつものルーチン、最初こそ戸惑ったものの、もう慣れてしまった。
きっと田口さんっていう、お手伝いさんも毎日こうやって甲斐甲斐しく世話を焼いていたのだろう。
これじゃ、でかい子どものようだ。
そしてしばらくすると、髪もボサボサのままで、本当に顔を洗っただけ出てきた榊原さん。
リビングでいつもの席に座ると、レンジで焼いたばかりのライ麦パンを出す。
食パンよりカロリーが低く栄養価が高いため私が好んで食べているパンだったが、榊原さんは朝ほとんど意識がないから特に何も言わずに食べている。
榊原さんの前に置いたランチョンマットの上に、薄切りにしたパンとコーヒーを出す。
「何か挟んで食べる?サーモン、コンビーフ、なんか生ハム色々あるけど」
「サーモン」
「クリームチーズとレタスで良い?」
「ん」
社長様の冷蔵庫は業務用のように大きく、元々あった食材も豊富だった。そこで、なんとなく好みも把握できて良かったが、食材が多過ぎたためなんとか賞味期限の早いものから消費して無駄なく使えるようにしていた。