ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
枯れた涙  
……頼むから、今はそんな顔をしないで欲しい。


只でさえこっちもいっぱいいっぱいなのに、そんな目で見られたら……胸の内の弱いものを全部吐露してしまう、だけじゃすまない気がする。


「……来るの、遅えよ」


ようやくそれだけ言った。


彼女は、言葉を見つけられないようだ。


仕方ないから、こちらから言葉を続ける。


「昨日も夕方だったよな、屋上で」


場所は……違うけど。


ここは、ウェスター国中央病院の屋上だ。


そう……屋上。


ここにいれば、彼女ならここを捜し当てて来てくれると思ったからだ。


だから、ここで待っていた。


彼女は走って来てくれたのだろう、息があがっていて顔も真っ赤だ。


……いや、顔が赤いのはまた別の理由か。


「……~っ」


彼女が、涙腺の堰をきった。


「お前が泣くなよ」


「だっ……だって……っ」


「頼むから」


涙は……見飽きた。


なのに、自分からは流れてはこない。


枯れてるのかもしれない。


「……ひどい顔、してる」


彼女が、ぼそりと言った。


「お前がか?」


「違う、シンラが、よ」


「……かも、な」


彼女が隣にしゃがみこんだ。


春の夕方だ、そういえばかなり冷え込んできた。


< 1 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop