ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
彼女が、自分の顔を覗きこむようにして言ってきた。


「……泣いてないんだ」


「それどこじゃ、なかった」


「今日のシンラの仕事、イサキと半分こだったのよ」


「すまん」


「大変だった。

でも平気だったの、全然ね。

今日はシンラの大事な日だと思ってたから。

……なのに」


彼女が俯いた。


「ウーさんのリクエストの……レーズンロールどころじゃねえな、もう」


「そんな!

そういうことよりも!

……シンラは……っ」


彼女は、言い掛けてやめた。


「……いや、ごめん」


彼女に謝られて、目を伏せて唇の端を少しあげる。


笑ったつもりはないけど、怒っていない意思は伝わっただろう。


「折角だ、少しつきあえよ。

湿っぽい話に」


折角……か。


我ながらよく言ったものだ。


聞いて欲しくてたまらなくて、どうしようもなくて。


只ぼーっと時間を潰して、彼女を待ち続けていたくせに。


「……母さんを信じてくれた、お前だからな。

話しときたかったんだ」


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